今年3月に閉店した本郷の旅館「朝陽館」(文京区本郷1)で5月24日、文京建築会ユースの声掛けで法政大学高村研究室が実測調査を行った。
同区本郷地域は旅館街と知られ、1928(昭和3)年には120軒が軒を連ねていた(文京区)。中でも同館は、1904(明治37)年ごろの創業で同じく本郷にあった菊富士ホテルとともに本郷の旅館街の先駆けとなった宿の一つとされる。かつて手塚治虫がこもって原稿を描いたという「蘭の間」も現存し、今年3月の閉店の際には地域内外から惜しむ声が上がった。
今回の実測調査は同館の記録を残すとともに、旅館街の記憶を後世に残していくため、文京建築会ユースの要請で、法政大学高村研究室の協力の下行われた。これまで5月1日・23日にも実施しており、今回が3回目。24日の調査には、同研究室の学部生や院生ら約20人が参加した。
実測は同館の本館と別館を対象に実施。参加した学生らは図面を起こした後に、メジャーなどの測量器具を用いて実測。中には初めて実測調査をするという学生らもおり、「こんな歴史ある建物で実測調査を学ぶことができて恵まれている」などと話した。3日間で130枚超の図面を作成したという。
同館は45ある客室全ての造りが異なり、各部屋の天井が特長的な造りとなっているため、実測調査では建物の「断面図」、間取りを示した「平面図」、建物外観を横から見た「立面図」のほか、天井を含め壁や床6面をおこす「展開図」の4つの図面を作成した。
実測調査を指導した同大の高道昌志さんは「通常は展開図を起こすことはまれ。旅館などの建物は飾りが多いのが特長で、建物の個性を記録していこうと思うと、展開図を作成しておくことが大事」という。同大博士後期課程の金谷匡高さんは「今回実測した記録からまずは模型を作る予定。ただ保管していくだけではなく広く発信もしていきたい」と話し、これまで文京建築会ユースや協力者、協力企業などが記録してきた写真や映像資料、今後予定する3Dスキャンなどと合わせて、地域などに広く公開する方法を検討している。
文京建築会ユースの栗生はるかさんは「実測や記録をしていく中で昔のものが出てくると、そこからこれまで知らなかった地域の話が一緒に出てくることも。そんなお話も含めて地域の記録を残し、発信していけたら」と話す。