竹久夢二美術館(文京区弥生2)で10月4日、「レトロかわいい楽譜表紙イラストレーションズ~夢二が描く大正ロマンの音楽イメージ~」が始まった。
夢二が手掛けた楽譜表紙絵の世界と、大正時代の音楽事情を紹介する同展。大正から昭和初期にかけてピアノを中心とした西洋の楽曲500シリーズを発表した「セノオ楽譜」の表紙絵の中から夢二が手掛けた作品256点と、関連資料約80点を展示する。
楽譜表紙は、「セノオ楽譜」「童謡・唱歌楽譜」「民謡楽譜」の3部構成で展示している。古今東西の名曲を紹介した「セノオ楽譜」のコーナーには、異国の少女をファッショナブルに描いた作品が並ぶ。
担当学芸員の石川桂子さんは「夢二は、着物姿が大半だった大正時代にいち早く西洋の少女をモチーフにした。自身は音楽に造詣が深かったわけではなく、解説や詩からイメージして描いていたと思われる。夢二が初めて外洋したのは亡くなる数年前のこと。外国の美術雑誌なども参考にしていたらしい」と話す。「当時は楽器も蓄音機も高価で、楽譜で視覚的に音楽を楽しむ風潮があった。夢二は音楽を視覚化して、イラストレーションの形式で近代の日本人に洋楽を橋渡ししたと言える。デザイナーとしても活躍した夢二の、アールヌーボー調の飾り枠や連続模様、タイトル文字のレタリングのバリエーションなどにも注目してほしい」とも。
「童謡楽譜」展示では、表紙絵だけでなく裏表紙や譜面ページのカット画など、夢二のこだわりを示す作品を紹介する。「民謡楽譜」展示では、土地土地で歌い継がれる民謡からイメージした、和服姿の女性を描いた表紙絵も並ぶ。同時期に流行した「浅草オペラ」と楽譜との関連性、詩人を志したこともあるという夢二の詩が余白に認められた日本画作品を展示したコーナーなども展開する。
石川さんは「音楽の専門家からすると夢二だけにフィーチャーするのは如何なものかと思われそうだが、イラストの質的にも数的にも、これほどの楽譜表紙作品を遺した作家は少ない。これまで学術的に研究される対象になりにくかった『セノオ楽譜』だが、近年は富山県立高志の国文学館や民音音楽博物館などで特集が組まれるなど、注目されつつある。自身の興味も相まって、今一度きちんとまとめてみたいと思い、今回の展示を企画した」と話す。「学生時代、オーケストラ・サークルでビオラを担当していた」という石川さん。「全てのキャプションに作詞作曲家名を入れたのはささやかなこだわり」とほほ笑む。夢二の仕事の一端を知る上で何らかの形でセノオ楽譜を出すことはあるが、まとめてこれほどの作品数を展示するのは久しぶり」とも。
10月19日、11月10日、12月21日は15時から、学芸員によるギャラリートークを行う。
開催時間は10時~17時。月曜休館。入館料は、一般=900円、高校・大学生=800円、小・中学生=400円。12月25日まで。