東京大学正門近くの五差路に5月8日、地域の新しい拠点「もりばあのいえ」(文京区本郷6)がオープンした。
2008年8月に閉店した食パン型の外観が特徴的なパン店「ベーカリーカヤシマ」の空き店舗を活用してつくられた同スペース。同地区の森川町会の名前とそこに集う女性たちを象徴して「もりばあのいえ」と名付けられた。
改修を手掛けたのは、同町会の婦人や地域の若者で結成された「文京区のライフスタイルを考える会」。「気軽にみんなで集える場所」を望む婦人らと、慣れ親しんだパン店の閉店を惜しむ若者らの思いが一致し、昨夏より活動を始めたという。床板張りや壁のペンキ塗りなどの内装は有志による手作業で、家具や小物類も地域の人から寄せられた品が使われている。
同会立ち上げメンバーの一人である建築家の猪又直己さんは、幼いころからの同店の常連。「小学生時代には宿題の一環で同店を取材した思い出もある。商店街では何軒も閉店が続き、にぎわっていた町の様子が変わってしまったことが残念で、何とかしたいと思った」と話す。
「店舗の活用に向けて最初に取り組んだのは、資金集めのためのフリーマーケット。シャッターを開け、店の前にテーブルを出して古書などを並べて座っていると、初めはけげんそうに眺めていた地域の人が次第に声を掛けてくれるようになった。物を売るつもりが、逆に家庭の不要品などを譲られることも多くなり、わらしべ長者のように必要な物が集まってしまった」と猪又さん。今年3月に閉店した旅館・朝陽館(本郷1)や、同じく昨年9月に閉店した銭湯・菊水湯(同区本郷4)からも、のれんやロッカー、食器類などを譲り受けた。現在、寄贈品には通し番号が貼られ、寄贈者一覧を掲示して活用している。
猪又さんの幼なじみで、同じく建築家の大崎駿一さんらのアイデアで内装や外装にも寄贈品が生かされた。エアコン用の窓枠と欄干を明かり取りにしつらえた引き戸や、松葉づえで作った看板など、ユニークな演出は同スペースの特徴になっている。
室内には同店の元店主・茅嶋ふくさんが描いた大きな油彩画も複数飾られている。四季折々の東大構内の風景を描いた作品群は、パン屋営業当時に手掛けたものだという。
今後、同スペースの運営は同会が行う。イベントなどを企画するほか、レンタルスペースとして地域に開いていくことも検討している。