文京・小石川の古民家「小石川大正住宅」(同区小石川1)が9月24日に一般公開され、記念イベント「能に親しむ暮らし*謡と仕舞」と、和の手仕事体験「暮らしいろは」が開催された。NPO法人江戸前21本舗と小石川大正住宅の共催。
白山通りと千川通りに挟まれた路地の一角に、高層マンションに囲まれて建つ築103年の同建物。2階建ての家屋は昨年リノベーションを終え、スペースとしての利活用を目指す第一歩として今回イベントが企画された。同住宅のオーナー・根木隆彰さんは「定年を控えて快適な昼寝の場所を確保する目的で改築したが、古い建物に興味を持ってくれる人が多く、公開しようと決めた。震災も乗り越えて100年を経た運の良い住宅を大切に維持していきたい」と話す。
宝生流能楽師・和久荘太郎さんを招いて行われた「能に親しむ暮らし*謡と仕舞」は、根木さんの亡父・勇雄さんが宝生流謡曲教授を保持していた縁もあり実現。勇雄さんも稽古に使っていたという2階スペースで、祝いの席にふさわしい「高砂」のしまいや「玉之段」の謡が披露された。作品解説や参加者が声をそろえて「高砂」を謡うワークショップも行われ、昼夕とも満席の会場が賑(にぎ)わった。
和久さんは「大学時代にはこの辺りに住んでいて、水道橋の稽古場まで通った思い出がある。宝生流にも縁のあるこの部屋で、こけら落としとも言えるこのイベントに立たせていただけて光栄」と話した。本駒込から参加した渡部美枝子さんは「近所の知人に教えてもらい参加した。故郷の山形では同時代の建物に暮らしていたのでとても懐かしい気持ちになれた。能を初体験できたこともうれしかった」と話す。渡部さんとともに参加した井上恵美子さんは「鼓を習っているので、能に興味があって参加した。このようなぜいたくな空間で、立派な先生のしまいを間近で鑑賞でき、謡の体験もできて大満足。ぜひまた開催してほしい」と期待を込めた。
1階スペースでは、「暮らしいろは」と題してさまざまな和文化に関する実演や展示販売が行われた。自作の和雑貨を展示した阿部かおりさんは「マンションのはざまの異空間に吸い込まれるようにお客さんがいらっしゃる雰囲気がとても良い」と話したほか、日本刺しゅうの実演をしたもりもとなおこさんは「とても落ち着く居心地の良い空間。定期的に参加できたらうれしい」とほほ笑んだ。
NPO法人江戸前21本舗の石山恒子さんは「四季折々の和文化の良さを伝えるイベントを毎月開催していく予定。文化とともに古民家の魅力を味わう機会をつくっていきたい」と話す。根木さんも「小石川地区は開発が進み、これからどんどん変わっていくけれど、古いものが一つくらい残っていてもいいのかなと思っている。100年残すつもりで楽しんで活用していきたい」と意気込む。