特集

【PASS the TORCH 文京アワード2025】第3回 候補者インタビュー
北尾昭子さん|「同じ思いをしないで」防災を日常につなぐ地域の架け橋

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 文京区の地域メディア「文京経済新聞」は、2026年から「文京アワード」を本格的にスタートします。そのプレ企画として、地域の未来を見つめながら、文京のまちに根ざした活動を続けている人を「文京アワード2025」候補者としてインタビュー。次世代に受け継ぎたいまちの取り組みや、その中心にいる人びとの思いを紹介していきます。

 第3回にご登場いただくのは、防災とエンターテインメントを掛け合わせた独創的な活動で注目を集める「ご近所 de BOSAI」代表の北尾昭子さん(通称:あっこさん)。東日本大震災の被災者からの言葉をきっかけに始まった11年間の活動を通じて、「いつも」から「もしも」をつなぐ仕組みをどう育んできたのか。防災を自分事にする場づくりの秘訣(ひけつ)と、次世代への思いや未来への展望を伺いました。

 


―北尾さんが現在取り組んでいる「ご近所 de BOSAI」の活動について教えてください。

 防災の啓発ボランティア活動をしている「ご近所 de BOSAI文京区を中心に、「防災を、日常に」をテーマに、自分の備えとご近所さんとのつながりの大切さを広める活動をしています。今年で11年目になります。

 メンバーは多世代で、専門的な知識を持っているわけではない「災害の素人」ですが、いろいろなバックグラウンドを持った人が特技を生かしています。自分たちの不安や心配を専門家から学ぶイベントを「楽しみ」を生み出しながら、地域で防災にふれるきっかけをつくることに意義を感じて活動している団体です。事業テーマは、大地震からいのちを守ることです。

 活動には2つの柱があります。一つは防災とエンターテインメントを掛け合わせて、オリジナルの防災ソングや防災遊びを制作しています。第1弾の「ソング de BOSAI」に加えて、この8月に防災盆踊りができました。それらの防災の歌から作ったクイズを組み合わせた、射的や釣り、輪投げ、クレーンゲームなどの防災の遊びを作っています。にぎにぎしい地元の伝統のお祭りに参加して、私たちのブースに立ち寄っただけで、「なるほど」につながる場づくりを提供しています。

 もう一つが、防災Xエンターテインメントの元となっているワークショップや学習会です。自分たちのまちの大地震が起こった時の不安を、近所にいるエキスパートから学ぶワークショップや学習会の開催です。「いつも」から「もしも」をとり入れた応急救護訓練や、住宅地図を見ながら地震・火災の初動の対応を考える地震火災イマジネーション学習会、そして他人になりきってリスクコミュニケーションを楽しく学ぶクロスロードゲームパーティーなどを企画しています。しかし、スキルや道具だけではいのちは守れません。

 どのイベントも防災食を食べたり、クイズや手話を学ぶワンポイントコーナーで体験したりしながら、多世代でも、外国にルーツを持つ方でも、楽しく参加できるようにいろいろな要素を組み入れています。「防災」というと真面目でハードルが高くなりがちですが、実は、「いつも」の中にいのちを守る大事なことがあります。自分たちのコミュニティには様々な背景をもった人がいることを知り、互いのコミュニケーションのギャップを埋めるツールや方法を知って、使いなれることも大切です。「人は一人では生きられない」から、助け合いの大切さを伝えられるような場になるように心がけています。メンバーも同じ思いをもった人たちが集まっているのはとてもうれしいことです。

 

―活動を始めたきっかけについて教えてください。

 東日本大震災から3年後に団体の声かけを始めました。きっかけは、仕事を通じて知り合った福島県の南相馬の方から「私たちと同じ思いをしないで」という言葉を頂いたことからです。

 今はメンバーとなっているその人や息子さんから過酷なエピソードを聞いたり、南相馬に水仙を植えに行いながら、現地の人たちからお話をいろいろ聞いています。ました。震災直後というのは情報が入ってきませんから、原発が爆発したことを本人たちは知らなかったそうです。NHKのニュース報道を見て、どうやら大変だということで避難を始めたら、警察官が防護マスクを着けていて本当にびっくりしたと。情報が全くない中、避難所はどこも満員で、車を飛ばして、人づてに聞いた避難所を5、6カ所も回って、ようやく入れた避難所が一番汚染度が高かった、という話も聞きました。災害の一番困難なところは、発災後に情報が入ってこないことです。自然は避けられませんが、災害にならないように、事前に備え、学び、害を減らすためには、みんなで力を合わせないと太刀打ちできないと痛感しました。

 もともと30年前の神戸の地震で、神戸の友達が多く被災して、直接本人たちから話を聞いていたので、わが家では引っ越すたびに真面目に防災対策をやっていました。

 それでも東北の地震以来、科学者の超巨大地震が日本には発生するという提言や南相馬のメンバーの「同じ思いをしないで」という言葉で、に、やっぱり何かしなくちゃという気持ちをかき立てられました。

 

―「素人だからこそできる」防災活動とは、具体的にどのようなものでしょうか?

 私たちは「防災の素人」です。でもこの素人感覚が重要なんです。簡単な例で言うと、消火器を使う時の手順があります。まず黄色い安全ピンを抜いて、ホースを本体から外して、最後にレバーを握って薬剤を噴射する。いわゆる「ピン・ポン・パン」の手順ですが、ある程度火元に近づいてからピンを外しなさいと訓練で指導されます。でも「なんで?」って理由が分からないのが素人です。

 タイムを競う防災訓練では、意外と先に焦ってピンを外して走っていっちゃう人がいるんです。消火器って10秒から15秒ぐらいしか噴射しないので、途中でピンを外して、レバーを握って走っていったら、着いた時には「あれ? 出ない」既に薬剤の噴射が終わってしまっています。


 「どうして火元を狙うの?」「どうしてここでピンなの?」そういうことを「え?」って感じるのが重要だと思っています。何も考えないで訓練で「そうですかそうですか」ってやっていると、応用が利かないし、興味も湧かないですよね。「素人」感覚で自分の頭で考えて、初期消火を学ぶ、応急手当てを学ぶことをするとわくわくしますよ。そんな訓練や学習会を専門家の指導の下でやっています。

 

―手話を取り入れた活動も印象的ですが、その背景を教えてください。

 これには2つ理由があります。一つは活動1年目の時に聴覚障害の団体の方がいらっしゃって、私だけ筆談用具がなかったんです。目の前でしゃべるんですけど、一生懸命口を動かしても、結局何も通じなかった。これはこのままでは駄目だと思いました。

 2つ目は、日頃の防災訓練はどうしてもマス(大勢)を対象にするので、少数派の人たちのことって忘れられやすいんです。耳が聞こえないのは見た目ではわかりません。コンビニの店員さんに「聞こえない人って来たことありますか?」って聞いたら「いや、ありません」とおっしゃる。実際は聴覚に配慮があった人だと気づかれてないことがあると思います。

 オリジナルの防災ソングのどちらにも手話が入っています。「実は聞こえない人もいる」ということを想定してもらいたいと活動しています。聞こえる人と聞こえに困難を抱えている人との間に、情報を得るのに格差があるのは大変な問題です。人権に関わる問題です。私たちはボランティア団体ですから、他の物まねではなく、できるだけ先駆的なことを考えだして、楽しみを生み出しながら率先してやっていくのが使命だと思っています。

 

―文京区で活動する理由や、文京区の地域性についてどう感じていますか?

 最初は東京全体をイメージしていましたが、立川のメンバーが「文京区がやることには意味がある」と言ってくれて、言い出しっぺの私がいることもあり、文京区を中心に活動を始めました。

 文京区って正直、地味で静かなんですけど、何というのか、温かいんですよ。伝統の祭りを中心に脈々と受け継いで頑張っている地域の人たちがおられます。「防災のチラシを貼っていただきたい」と初めて町会役員さんにお願いした時も、「防災? いいよいいよ、どうぞどうぞ」みたいな感じで、受け入れてくださる心意気がいい人たちがたくさんいらっしゃるんです。

 路地でもちょっと会釈をお互いしたり、季節のお花を家のまえに植えていたり。文京区って簡単にはでき上がらないものを持っている、地に足がついた、かっこつけなくていい自然体の地域なんです。102年も大地震がないのでリスクを想像しにくいですが、文京区が命を守ることに本気になったら、影響は絶大じゃないですか、きっと、文京区だから。

 

―活動を通してうれしかったエピソードがあれば教えてください。

 子どもが家でも防災の歌を歌ってるよと教えてくれたり、高齢の方が「これなら私もできる」と笑って参加してくれたり。家を建てるのに参考になったとか、災害後にどんなことをしなければいけないかクリアになって不安がなくなったとか、紹介し出したらキリがありません。メンバーには、お母さんが一生懸命防災ボランティア活動をしているので、子どもたちもすっかり詳しくなったというのもうれしいエピソードもあります。イベントの終わりのアンケートには、「こんな貴重な機会をありがとう」と感謝されたことが、メンバーにとって最もうれしく励みになっていると思います。

 

―現在、活動を継続していく上での課題はありますか?

 私たちの地域は大地震を102年も経験していませんから、そもそもリスクを想像すること自体が難しい地域です。また、市民が包括的な防災教育を学ぶ場も限定的ですので、リスクの共有がいまだなされていません。「防災やろうよ」ではなかなか備える仲間になっていただけないので、今後も『防災食』等、誰にでも身近な「食べること」を必ずイベントに入れて、「楽しみ」ながら「なるほど」につながるイベントを充実させながら、しっかりした学習会を構築していくことが重要だと考えています。

 また、どの地域活動もそうだと思いますが、特定の人に頼りすぎている現状は課題です。少しずつ関わる人の輪を広げ、地域活動の一環として自然な形で、防災のバトンを渡していける仕組みづくりが必要だと感じています。

 

―今後、どのような街にしていきたいと考えていますか?

 この国は災害大国です。特に私が関わる若い人たちに期待していることがあります。若い人たちは経済活動の一線で、学生さんもこれから社会へ出て活動される中で、どんな人も助かるためにはどのような経済活動や社会活動をしていればいいかなぁと考えて行動していける人たちがいるまちになるよう願っています。「もしも」が来ても「誰かがいる」と信じられる街にしたいです。そのためには、つながるきっかけをどんどん仕掛けていきたいですね。「いつも」ソフトにご近所の人たちとつながっているまち。一人では生きられない、他人に甘えてもいいんだということが、生きやすい社会につながると思います。


 

―最後に、北尾さんにとっての「PASS the TORCH」、次世代へのメッセージをお願いします。

 「暮らしの中に優しさがある」文京区で、防災を通じて培ってきた「つながる仕組み」を次世代に引き継いでいけたらありがたいですね。

 私たちが作り上げたオリジナルのインクルーシブ防災盆踊りを一緒に踊りませんか。若い人が持つ輝き、突破力そして明るさが、テレビを365日見ている人生の先輩たちや、地震を知らない土地勘のない新しい住民や、外国にルーツを持つ人たちを巻き込む力になります。文京区の「地に足がついた」、「かっこつけなくていい」自然体の良さにマッチした防災盆踊りで、ヨイヨイヨイと踊って入れば、震災などが起こったときに頼りになる近所人と知り合いになっている。そんなつながりを作っていってほしいですね。

 防災も一人ではできません。でも、みんなでやれば楽しくなる。次世代の皆さんも、自分の得意なことから一緒に「いつも」から「もしも」をつなぐ活動に参加して面白いことを始めましょう。そして、文京区のあったかさを一緒に育んでいきましょう。
 

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