地域研究のプラットフォームを目指す「やねせんあたり研究所」が発足し、宮本記念財団ミニミュージアム準備室(文京区根津1)で2月24日、第1回研究発表会が開催された。
「やねせんあたり研究所」の趣旨を説明する座長の片桐由希子さん
大学や研究室、企業の枠を超えて、地域で研究や活動のアプローチや成果を共有することを目指す同会。ランドスケープ計画や観光地域計画などを専門とする首都大学東京の片桐由希子さんを座長に、谷中・根津・千駄木エリアを中心に建物の保存や活用に取り組む「たいとう歴史都市研究会」の椎原晶子さん、根津の長屋を改装した「アイソメ」を拠点に活動する「文京建築会ユース」の栗生はるかさん、本郷の文化資源の保存・記録・活用を目指す「本郷のキオクの未来」の三文字昌也さんらが協力して結成。
当日は、椎原さんが谷中、栗生さんが根津、三文字さんが本郷での、それぞれの取り組みを紹介。東京大学大学院都市工学専攻の学生による演習授業の研究発表もあり、根津駅前の敷地を対象とした設計提案がなされた。
発表した同大院生の東窪有紀さんは「ビルのオーナーの方の話も直接聞きながら企画検討できたことは貴重な体験だった」と話す。「学部時代は美学専攻だったが、芸術鑑賞などプラスアルファの営みは生活基盤が成り立ってこそのものなので、ベースになる生活の部分を学びたいと思い都市計画の研究を始めた」と東窪さん。「建築はアートの領域で語られるが、都市をアートとして扱われることがあまりないので、その辺りも探っていきたい」とも。
同大院生の宗野みなみさんは、学部時代には建築を専攻。「建築には建物という枠があるが、街には終わりがないのが好き。どこまで歩いて行っても、街は地球一周つながっているのがいい。歩いていて風景が変化したり、生活感が見えたりするのも好き」と宗野さん。学部時代から都市工学を専攻する松村優さんは「社会に興味があり、特に生きづらい人、住みにくい人の力になりたいと思うようになった。義手や義足などを扱う医工学にも興味がある」と話す。
椎原さんは「大学の研究が、それぞれの図書館などに収まって終わりというのが非常にもったいない。昔のように教授の研究を受け継いでいくような慣習も減ってしまい、個々の研究が途絶えてしまうのも惜しい。器を作っておけば重なるだろうと、『地域立』の研究所を作りたいと考えた」と話す。「同じ時期に修論卒論を書いた人たちがつながることで分野を横断したネットワークが各世代に展開されるのでは」と期待を込める。
栗生さんは「大学の演習は受け入れる方も大変。地域でテーマを提案できるくらいのものになれば理想的。大学が(地域をテーマに)提案する時、自由に選んでもいいけれど、受け止める人がいた方が立体的な研究になり、実現にも近づける。大学や大学院生の研究リソースを適正な場所に振り分けていくこともできたら」と意気込む。
椎原さんは「谷中・根津・千駄木周辺は、江戸・明治・大正・昭和から現代まで、たくさんの歴史や暮らしが生きているまち。毎年、多くの学生が卒論や修論、演習、制作に訪れる。研究データの蓄積と保存をし、まちにも還元、共有していきたい。参考文献もそろえて、ここに来れば谷中のこと、ここでは根津のことが分かるといった、地域分散型の図書館のような拠点にできれば」と話す。